第23章 ・隠れていたもの
白鳥沢学園高校男子バレー部の監督をやっている鷲匠鍛治が体育館へ向かう途中の事である。向こうから1人の女生徒が歩いてくる。全体的に今日日珍しい地味で控えめな雰囲気、発育の心配をした方が良さそうな体つき、通りすがりに頭を下げるその顔をよく見ると知らない顔ではなかった。
「お前、若利の妹か。」
鷲匠は思わず呟く。
「はい。」
足を止めて女生徒は頷いた。少し震えている。兄と違い軟弱な奴だと鷲匠は思うがすぐに義理の兄妹である事を思い出した。しばし2人は沈黙する。
「顔どうした。」
しばらくして鷲匠は尋ねた。牛島文緒は片頬に湿布を貼っていたのだ。喧嘩をするようなタイプとは思えないので余計に目に付いたのかもしれない。
「体育の授業がバレーボールでして、」
牛島文緒は答える。
「試合をやったのですが相手方のボールを受け損ねました。」
「情けねえなぁ、ちったぁ兄貴を見習えや。」
「ごもっともです。」
高1とは思えない返事をしてそれまで俯き気味だった牛島文緒は顔を上げた。つい鷲匠はこう尋ねる。
「お前いくつだっけか。」
「15です。」
「思ったよりガキだな。しかしそれにしても情けねえ。」
「存じております。」
15にして言葉遣いはこれである、大人を馬鹿にしている訳ではないだろうがよくわからん奴だと鷲匠は思う。若利も苦労しているだろうなと実情を知らない監督は考えた。
「まあいい。あとな、ねえとは思うが若利の足は引っ張るなよ。」
「元よりそのつもりです。」
ここに来て鷲匠は牛島文緒の一見大人しそうな顔に何か挑むようなものがあることに気づいた。
「そろそろ帰らねばいけません。では失礼します。」
「おう。」
牛島文緒は頭を下げて急ぎ足で去っていく。鷲匠はその後ろ姿を見てポツリと呟いた。
「血筋か、それとも。」
再び体育館へ向かう鷲匠の頭には文緒の義兄が浮かんでいた。