第1章 平穏だった日々
次の日の朝、退学届けを出しに、うちのクラスの担任の
河野先生のいる、音楽室に向かった。
河野先生は、女の新任の音楽教師で、吹奏楽部の顧問をしており、優しくて、指導の仕方も上手だと評判で、
生徒から人気の先生。
「失礼します」
朝早くに来たので、朝練がある吹奏楽部の部員達もおらず、
いるのは河野先生だけで少し安心した。
「おはよう、赤井さん。どうしたの?確か美術部は朝、ないはずだけれど」
先生は自分のクラスの生徒の事はよく覚えていて、誰がどの部活に入ってたり、他にも、誰が何を好きなのか覚えていて自分の事をよく分かってくれる先生なので、うちのクラスが荒れたり、いじめが起こったりしたことは一度もない。
「あの・・・これ・・・」
先生とはいつも気軽に話しているけど、退学届を渡すときにはそうもいかない。先生はそれを受けっとってから、少し驚いたような顔をしてから、
「赤井さん、どうしたの?まだ、3年生に進級したばかりだし・・・友達とも、仲良くやってたよね?」
と優しく、心配するような感じで声をかけてくれた。
「はい・・・でも、学校が問題じゃなくて、昨日、祖母が亡くなって・・・お金とか、学校には祖母は払ってくれていたし、親戚の人に迷惑はかけられないし・・・」
と、言うと少しの沈黙の間、河野先生が
「・・・お金だけだったら、学校側も補助をしてくれるし、身寄りがない学生の支援をしてくれる人もいるけど・・・」
と言ってくれた。けど・・・
「すみません。もう決めたことなんで・・・」
そう、もう決めたことだし、誰にも迷惑はかけたくない。
「分かったわ。でもクラスの皆には・・・」
「明日、伝えておいてください。私、今日は学校に居ます。
友達には今日の放課後伝えます。」
「そう・・・けど、赤井さん。何か困ったこととか、悩みができたら、いつでも言いに来てね。先生、相談に乗るから」
とニコッと笑いかけてくれた。
「はい。じゃあ、教室に行くんで。」
と言い、音楽室を後にした。