My important place【D.Gray-man】
第30章 想いふたつ
不覚だった。
まさかあんな所で急所を狙われるとは思わなかった。
頭でも潰されない限り、体の再生に時間なんて掛かりゃしない。
そう甘く見てた俺の思考の緩さもあったかもしれない。
「か、んだ…ッ」
震える声で俺の喉元に手を当てて、見下ろしてくる月城の顔。
飛沫を上げる俺の血がその顔について、更に月城の顔は歪んだ。
「止まれ…ッお願い…!」
脱いだマントを強く喉元に押し付けて叫ぶ様は、まるで泣いているようだった。
泣くなよ、こんな所で
モヤシに見られんだろ
伝えようとした言葉は口から出てこなくて、代わりに溢れたのはぬる付いた自分の血。
「しっかりして、神田!」
阿呆か
俺の頭はしっかりしてる
それよりお前、こんな所に出て来るんじゃねぇよ
AKUMAが残ってたらどうする
「何…ッ?」
そう伝えたくても、喉が裂けて空気が漏れる俺の器官は音を発せない。
急激に失った血液に、冷えた体も上手く動かせない。
そんな俺に寄せる月城の顔だけ、間近に見えて。
その視界が、段々と薄暗くなっていく。
…嗚呼、またか。
何度も何度も経験した。
昔。
あの暗く冷たい地下の実験室で、イノセンスなんてもんと同調させられる度に削られた俺の命。
体の中を無理矢理何かが入り込んで、内部から捻じ曲げられる耐えきれない程の痛み。
そんな痛みが全身を走って、血を噴いた体は機能を止める。
何度も何度も経験した、それは確かな"死"。
急激に失った血液と大きく削られた肉体は、どうやら一度限界を迎えたらしい。