【SS合同企画作品】autumn collection
第3章 松虫草
雨上がりの夜、冷たい秋風が私の頬を触る。こぼれそうな涙が落ちないように空を見上げる
神様は何故こうも意地悪なのだろう
゚・*:.。.*.:*・゚.:*・゚*
彼のことを考えている時間がいつの間にか生活の一部になっていると気づいた時、恋に落ちて何日が経っていたのだろう
初めて彼に会った時、獲物を捕らえた鮫のような鋭い目で私を見つめる彼を見て美しいと思った
“暗殺者とターゲット”
私たちはそれ以外の何でもなくそれ以上の関係になれるわけもなかった。そんなことは最初からわかっていたはずなのに。彼の大きな声、お節介な性格、誰よりも責任感が強いところ、ふと見せる壊れてしまいそうなほど優しい表情、知れば知るほど胸の中の何かが大きくなっていった
午後10時過ぎ、玄関のドアの向こうに銀色に光る影が見えたらそれは彼が来た合図。扉を開けると雨に濡れた彼が険しい表情をして立っていた
『どうしたの?暖かいもの飲む?』
「いや、いい。いらねぇ」
『そっか。中入りなよ』
彼は俯くだけで何も答えない。胸騒ぎがした
『スクアーロ…?』
「もう、ここには…来ない」
彼の言葉に私は耳を疑った
『なん…で?どうして?』
必死に紡いだ言葉もうまく音にならない
「お前のこと…」
言いかけた言葉の続きを言う前に彼は私に花を押し付けると出て行ってしまった
『スク!?待って!!』
彼の姿はどこにもない。まるで最初からそこになかったかのように
私は彼を追いかけて外に飛び出した
どこまで来たかわからない。私は疲れて足を止めた
『これ…』
彼がくれた淡い紫色の松虫草を見る。花びらの上に私の涙がこぼれ落ちる
『スク…私…っ貴方のこと好き…っ』
声にならない声は秋の夜空に消えていった
松虫草の花言葉
私は全てを失った