第11章 夕暮れと月城荘
どれほど時間が経ったのかわからない。
武田は夕焼けに照らされながら月城荘に到着した。
「ブ〜ラブラブラブ〜ララ〜♪」
遠くから変な歌が聞こえる。
この変な歌は雪村さんか…
歌声は段々近づいて来ているようだった。
「頭に乗せたら猫耳〜♪でもそれ黒ブラジャ〜♪
…って、れっち?今帰り〜?」
ちょうど帰宅した雪村の手が武田の肩にぽん、と置かれた。
武田は反射的に体をビクッとさせ、恐る恐る雪村のほうに顔を向けた。
「あ…;うん…そうだよ…;;」
「れっち、何その顔…。」
武田は雪村に悟られないように精一杯の作り笑いをしたつもりだった。
しかし雪村にはそんな顔は通用しない。
「何か…あったの…?」
悲しそうな顔をしながら雪村が問いかける。
「ぁ…。ううん、何もないよっ;」
それでも武田はなんでもないフリを続けた。
更に雪村は悲しそうな顔をする。
「れっち…。」
雪村は武田を後ろからぎゅっと抱きしめる。
「俺の事…、頼ってよ…。」
力強く抱きしめながら耳元で囁く雪村。顔は見えないが声から察するに辛そうな顔をしているのだろう。
自分の事を大事に考えてくれてる人がいる。優しく心配してくれる人がいる。そう思うと武田は緊張の糸が切れたのか泣き出してしまった。