第10章 旅館の夜
「風呂のときだけど……」
「……!」
忘れてた……。そうだった。
菅原先輩が言ってたのは、さっき岩泉先輩に頭を撫でられてたのじゃなくて、混浴での出来事……。
違和感がストンと腑に落ちて、いろんな意味で菅原先輩に申し訳なくなってきた。
あの時タオル一枚越しに岩泉先輩に抱きしめられる形で密着して、三年生二人に左右から挟まれて、金田一や国見まで近くにいたんだ。
嫌がる様子や体を隠す様子もなければ、岩泉先輩の腕の中で寝てしまうんだから……。
それは烏野の人から見れば、おかしなことに違いなかった。
「真白ちょっと緊張感なさすぎるんじゃないの?」
「……」
「女の子なんだから、もっと自分を大事にするべきだと思う。嫌じゃなくたって、男の方が何考えてるかなんてわかんないだろ?」
真っ直ぐに菅原先輩の声が入ってきて……。
心配してくれてるのが、凄くわかった。普通女の子ならこういう風に心配されるんだ……って懐かしい感覚があった。
及川先輩たちとセックスばかりしてて、そういうの忘れてた。
いつもなら、混浴での出来事以上にいやらしい事をしてるんだし、あのメンバーだから拒否するわけないのに、って思っちゃうんだけど。
急に言われてビックリしたせいで、妙に納得してしまって。
それに、ほんの少しだけ嬉しかった。
及川先輩とそういう関係になって、性欲の対象として見られることに興奮はするようになったけど。
女の子として見られてることも、やっぱり純粋にいいな……って。
好きとかそういう感情は全然関係ないんだけどね。
「ありがとうございます。ちゃんと気をつけますね」
「うん。それなら……良かった」
ほんの少し離すのを惜しそうにしている菅原先輩の手から、サッと手首を引き抜いた。
おやすみなさい、って一言だけ挨拶を交わして振り返らずに部屋の中に入る。あんなに離れるのが名残惜しい岩泉先輩って、相当好きなんだな、私……。
今更疲れを感じて布団に倒れ込む。隣には既に、潔子さんが静かな寝息を立てて寝ていた。
瞳を閉じる寸前に聞こえたメールを知らせるケータイの音。中身を確認した私は、上機嫌で眠りについた。
【おやすみ】