第28章 喪失 7
錦戸と安田と雪は
左右反対の世界で
いつもはゲストを案内する
部屋で三人かたまるように過ごしていた
顔では笑顔を見せていたが
いつ敵が襲ってくるか分からない
恐怖と戦っていたのだ
三人で過ごしてから
どれぐらいの時間が過ぎただろうか
錦戸は雪に
この世界のヒントを探ろうと
話しかけたのだ
錦戸「そうやお前は
どうやってここに来たんや?」
錦戸の言葉に
雪はその時を思い出すように
少し考え込んだが
ゆっくりとした口調で話し始めた
雪「村上さんとお客さんと
奥のリネン室で敵から隠れていた時に
急にお腹の子供が暴れ出して・・・」
その言葉に安田が反応した
安田「子供が暴れたん?」
雪は静かに頷いた
雪「敵に反応するように・・・
すごい勢いで暴れたの」
今はいないお腹を見て悲しそうに言った
その様子を黙って聞いていた
錦戸が嬉しそうに言った
錦戸「子供も戦おうとしたんかもな」
その言葉に二人が錦戸を見る
錦戸「やってさぁ、
誇り高い吸血鬼やろそのガキもさ
負けん気強いと思うけどな」
錦戸は得意そうに
胸を張るように言ったのだ
雪「それって・・・
おじさん達、譲りって事ね」
そう言って雪は二人に笑ったのだ
すると安田も赤ん坊を思って
笑いながら言った
安田「ふはっ、赤ん坊でも一人前の
吸血鬼なんやな」
三人は少しの間、笑い合ったが
笑いが止まると
雪は真剣な顔に戻り
先ほどの話を戻すように
二人に話し始めたのだ
雪「痛みに耐えている時にね
見つけたって
気持ち悪い声が耳に聞こえた途端に
意識がなくなって・・・・」
そのまま雪は口を噤んでしまった
その様子を見た安田が続けた
安田「気が付いたら、この世界にか?」
雪は静かに頷いた