第16章 奇跡は起きない
『休憩、終了です』
ブザーが鳴り、五人はベンチを立った。
「藍川」
コートへ向かう五人を見送り、私もベンチに座り直そうとした時、黛さんに声を掛けられた。
「…何でしょうか?」
「顔。不安を抑えきれない様子がダダ漏れだ。間違っても誠凛を応援するようなことはするなよ?これ以上赤司が怒れば面倒だ」
「!」
「多分、今気づいてるのは俺だけだ。気を付けろよ」
それだけ言うと、黛さんも先にコートに出た四人を追いかけ行った。
今までもそうだった。
黛さんは、私が不安を感じていたりすると、すぐに気づく。
それだけ人間観察が板についてきた、ということなのだろう。
「黛さん…」
心配を…ううん、迷惑をかけてしまってごめんなさい。
「さあ、始まったぞ!第二クオーター!!」
洛山が…征十郎が動くとしたらここから。
そして、征十郎がパスを出した。
一見、パスミスにも見えるそれは…。
「なに!?」
黛さんが動き出し、レオ姉にパスが回った。
そして、何事もなかったかのようにレオ姉は3Pを決めた。
「コイツは…」
「嘘…だろ」
「まさか…黒子と同じ…?」
一般の観客からしてみれば、何が起こったかはわからないだろう。