第2章 聞いてないわ
好きに、と言われても、こちらは後輩なのだ。
そう易々と好きに呼べるわけがない。
中学時代だって、これでも従兄の修ちゃん以外はきちんと『先輩』呼びをしていたのだから。
「華澄、どうせ見ているのならば働け」
「は?」
ボーっと一人練習を見ていた私に、さも当たり前かのように征十郎は言う。
「私、今日はジャージを持ってきていないわ。制服のままなんて嫌よ」
「中学の頃もよく制服のままで部活へ来ていたのはどこのどいつだ。ほら、僕のジャージくらいは貸してやる」
そう言って征十郎が投げてきたのは真新しい洛山のジャージ。
征十郎の言う通り、彼らが変わってしまってから無感情になった私は、着替えもせずに部活へ行くことが多かった。
着替えたところで汚れるような仕事は私には回ってこないし、もういいや…と言った具合だ。
渡されてしまったものは仕方ないので、私はブレザーをを脱ぎ、それを羽織る。
「(…うわ、ぶかぶか)」
バスケットプレイヤーにしては小さい方だが、それでも低身長の私とは20センチも身長差のある征十郎のジャージは勿論ぶかぶか。
彼のものでこれだけぶかぶかなのだ。
これがもしあっくんのだったら…と想像しようとしたが、止めた。