第2章 お月見
空に浮かび上がる満月を眺めながら…
私は膝の上にある柔らかな髪を撫でていた。
ふわっと風に揺れるススキの穂を思い出す。
月明かりに照らされる白い穂はキラキラ輝くように見えるのだろう…そんな事を思いながら。
「ちゃん。今日は十五夜っしょ?お月見しねぇ?」
和成と手を繋いで歩く帰り道。
空はスミレ色からグラデーションを描くように頭上には夜の帳が近付いていた。
「今日…オレん家、誰も居ないんだよね〜。」
私が和成のこの仕草に弱い事を知っていて使ってくる。
和成の流し目はドキっとする程に色っぽい。
「もう…ソレをされたら断れないの知ってるでしょ!」
私が抗議の声を上げると和成は私の目線に合わせるように屈めて顔を覗き込んできた。
「好きな子に最強の武器を使わない手はないっしょ。」
深橙色の目を細めて和成がヘラっと笑う。
途中で買い物をして和成の家に着くと、和成の言う通り家族は誰も居なかった。
ルーフバルコニーへと続く窓を全開に和成と肩を並べてフローリングにクッションを敷いて座る。
いつの間にか満天の星と満月が浮かび上がっていた夜空を眺める。
「綺麗だね。」
思わず呟くと、和成がゴロンと横になった。
「ちゃんの膝枕でお月見とか贅沢じゃね?」
子供のように笑う和成が可愛くて、流れるようにサラサラと風に揺れる黒髪を撫ぜた。
「ねぇ、ちゃん?」
名前を呼ばれて、膝の上にある和成の顔を覗き込む。
そこには月明かりに浮かぶ私のシルエットと、満月を写す深橙色の瞳があった。
無意識に和成の頬に手を添える。
「和成の瞳…綺麗。」
私を真っ直ぐに見つめる和成の手が伸びてくる。
まるで自分に引き寄せるように首に回された手。
その力に抗う事なく私と和成の縮まる距離。
お互いの視線が鼻先でぶつかり合う程の距離になった時。
まるで獲物を捉えた猛禽類の様な鋭い眼差しで私を見つめながら和成が囁いた。
“明日のスーパームーンも一緒に見よう…な”
私の返事を待たずに重なり合った唇。
熱を持った口吻けを繰り返しながら、和成がもう一度囁いた。
“愛してる”
優しく降り注ぐ月明かりをベルベットに。
私たちは何度もキスをした。