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【SS合同企画作品】冬が来るその前に

第1章 読書


チッ…チッ…チッ…
この場所では、時間を刻む音すらも罪であるかのように唯々静粛だけが広がる。
自習生徒の為に用意された、パーテーションで区切られたスペース。
最奥でありながら、陽当たりの良い何時もの場所。
深まる秋の乾いた風音を感じながら、僕は手元の綴られた文字へ視線を走らせていた。
傾いた陽射しは柔らかく、床に延びる黒く映し出されるシルエットを長くした。
僕の隣でふわっと空気が揺れ、傾いた陽射しを乱反射するかのようなサラっとした髪が揺れた。

「、何時もより遅いんだな。」
「委員会が長引いちゃったの。」
「そうか。」

ノートと参考書を広げると、彼女は左手を参考書に添えるように置いた。
指先が触れる位の微かな温もりに彼女のペンを走らせる手が止まる。
彼女の可愛い反応が僕のイタズラ心を擽る。
暫くすると、何も無かったのようにまたペンを走らせる彼女。
今度は指先だけでは無く、手を重ねしっかりと握る。

「赤司君?」

遠慮がちに声を潜めて紡ぎ出される言葉。

「どうした?」
「…手。」
「手がどうした?」
「み…みんなが居るし、ここは図書室だから。」
「パーテーションで区切られてる。誰にも気づかれる事など無いと思うが…ね。」

の瞳を真っ直ぐに見つめ返すと、は頬を紅潮させた。
先程まで目を走らせていたページをそっと閉じる。
僕は彼女と向き合うように身体を傾けた。
の左手に重ねていた右手を解くと、僕はもう一度左手での手に指を絡めるように握り直す。
チッ…チッ…チッ…
時間を刻む音を聞きながら、僕はそっとの唇を指先で撫でた。

「可愛い事がの罪だ。そしてを穢すのは僕の罪。
ならば、口吻けでその罪を浄化しよう。」

の柔らかな唇にそっと重ね合わせた唇。
そこから感じるの体温。
少し長くなってしまった口吻けは、甘い痺れだけを残す。

「本来の目的とは違う事で使ってしまった背徳感を感じているなら、
その背徳感を次は快感に変えてみようか。」

パーテーションで区切られたスペースで。
僕は何度もと唇を重ね合わせた。

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