第59章 エピローグ
俺たちがまだ武州にいた頃の記憶
「さん、きょうかすいげつって知ってますかィ?」
まだ幼さを残す総悟が俺に尋ねてきた
『鏡花水月?確か、目には見えるが、手に取ることのできないもののたとえ。はかない幻。とかだっけ?それがどうかしたの?』
総悟は目にうっすら涙を溜めて唇を尖らせる
それからボソボソと呟いた
「……なんだか、さんみたいでさぁ………」
『へ?俺?……どうしてそう思うの?』
今にも泣き出しそうな総悟に優しく声をかける
「だって…さん、いつも側にいて、手の届く距離にいるのに、触れたら消えて失くなっちゃいそうで…なんか、そんな感じがするんでさぁ」
『総悟……』
記憶が無くて不安定な俺の心情を総悟は幼いなりにも感じとっていたのだろう
『総悟、おいで』
総悟を膝の上に座らせ、後ろからギュッと抱きしめた
『大丈夫。俺は消えたりなんかしないよ』
「本当ですかィ?……記憶が戻っても…?」
『あぁ。約束する。ずっと総悟の側にいるよ。それに水面に映る月や鏡に映る花だって実際には触ることが出来るし、ちゃんとそこにあるんだよ。だから、目に見えるものだけじゃなく、そのものの本質を知れば掴むことだってできる。そう思わない?』
「思う‼︎」
『だからね、総悟。俺の事もしっかり掴まえててよね?』
総悟は笑顔を満開にさせたーー