第16章 【番外編】➕てぃあー
でも、時折無意識になのか黒目がちな眼は及川を見て、伏せられた。
マスカラで伸ばされた睫毛が影を落として、ひどく色気がある。
でも及川から念押しされた彼女だ。
そう、ここまでは確かにそう思っていたのだ。
『そうだ、岩泉さん、私に飲ませたいカクテル頼んでください。私も岩泉さんの頼みます』
悪戯っぽい眼は、明らかに挑発していた。
ワインクーラーを頼む。
濃い色合いのロゼワインで作られたそれは紅を這いた唇の様でひどく淫猥だった。
彼女が選んだのはヴァイオレットフィズ。
クラッシュアイスが炭酸に弾かれてカシュカシュと軽い音を立てる。
落としたい相手に飲ませる媚薬――そう言わしめたリキュールを隠すような軽さだ。