第2章 紅葉
「秋か…」
家の近くの山を見上げる。
10月下旬ともなれば、随分色づいてきたそれに季節を感じる。
私はこの赤やオレンジ色がとても好きだ。
風景を楽しみながら歩いていると、前方に見覚えのある姿を見つけた。
「月島くん!山口くん!」
同じ高校、同じクラスの月島蛍。
彼は幼馴染らしい山口くんといつも一緒に登校している。
普段は朝練で会うはずのない2人だが、今日は会えた。
私が日直で早いからだ。
「あれ、さん早いね」
「日直だから」
「あ、そっか」
で、大体話すのは山口くんとだけ。
月島くんとも話さないことはないんだけれど、朝の月島くんはいつも以上に無口なのだ。
でもって、教室に行くと月島くんを好きな女子とかいるわけで、むやみに話すこともしにくい。
学校に着くと2人はすぐに体育館へ向かった。
ちなみにそれまで月島くんとは一言も喋っていない。
まぁいつものことだ、と誰もいない教室に入る。
とても静かだ。
ガラッ
突然開いたドアの先には、少し息を切らした月島くん。
すぐさま机に向かい、横に掛かっていた袋を手にした。
なるほど、シューズを置いていたのか。
「月島くん、朝練頑張ってね」
「…うん」
今日はこのほんの少しの会話だけでも十分だ。
ちゃんと目を見て返事をしてくれた。
ただそれだけが嬉しかった。
のに。
「…今帰りなの?」
「うっ、ん…」
日直だからと担任に押し付けられた仕事を済ませていたら、帰る頃には外は真っ暗だった。
しかももう1人の子は部活が忙しくて来れなくて、なんでそんな時に仕事を増やすのだと担任を心底恨んだ。
でも、今思えばこうして月島くんと2度目の会話をしていることを考えると、担任に感謝の意しかない。
「暗いし危ないから一緒に帰る?」
なんて言ってくれたのは山口くんだけど、月島くんも嫌そうではない。
そっと月島くんの隣を歩くけど、大きいし足長いし距離がどうしても空いてしまう。
置いて行かれないようにと早足で歩くが、慌ただしくて恥ずかしい。
すると、ふとペースが緩んだ。
「…大丈夫?」
「あ…うん…。ありがとう…」
「うん」
気付いたら月島くんとの距離がグッと近くなっていた。
少し肌寒いはずの秋の夜、暗くて見えない紅葉の紅が自分に映ったような気がした。