第11章 秋の味覚
「ただいま~」
「おかえり、光太郎」
少し疲れが混じった明るい声が家に響く。
リビングに入ってきた光太郎は、ネクタイを緩めてソファに転がった。
「ご飯すぐ出来るから、手洗って待ってて」
はーいと素直に手を洗いに行く光太郎は、26歳になった今でも可愛らしい。
男の人からしたら嫌だろうけれど。
出来上がったほかほかのご飯をテーブルに並べ、光太郎が着替えてくるのを待つ。
今日は秋ならではの食材を駆使した。
お肉が大好きな光太郎には物足りないだろうけれど、どれも上手くできたから気に入ってくれると嬉しい。
「ええ~。今日肉無えの?!」
ほらね。
「言うと思った。今日は秋の味覚コースです」
「うぅ~ん…」
「かぼちゃのサラダ、焼き松茸、栗ご飯、サツマイモの天ぷら。ほら、匂いもいいでしょ?」
「…まぁ、言われてみれば確かに?」
「とりあえず食べてみてよ」
「…いただきますっ!」
「いただきます」
ゆっくりと食べ始める光太郎。
噛めば噛むほど、スピードが上がる。
つまり、美味しいってことだろう。
「おいし?」
「ふん!へんふは!ふひ!」
「なんて?」
お箸で指してるのを見る限り、天ぷらと栗ご飯が美味しいって言っているんだろう。
面白いからわからないフリするけど。
「喉詰まらせないでね?」
「ん!」
そうして光太郎はあっという間に完食し、結局満足そうにお腹をさすった。
そのお腹も少し膨れている。
「ふー!食ったー!たまには肉無しもいいな!」
「そうでしょ?しかも松茸なんて高級なもの、滅多に食べられないんだから」
「だよなー!ごちそうさま!」
「はい」
そう幸せそうに笑う光太郎に、私もまた幸せな気持ちになった。
「見て、めっちゃお腹膨れた!」
「見た見た。…私もそのうちそうなるんだよなぁ…」
「ん?」
この幸せが、二人だけのものじゃなくなる時、私はもっと幸せになるんだろう。
「赤ちゃん…できた」
「……へ」
「私と光太郎の、新しい家族」
「ええぇっっ?!?!」
聞こえますか、お腹にいる私達の赤ちゃん。
パパは馬鹿だけど、笑い泣きしながらママとあなたを抱きしめてくれる、優しい優しい人だよ。
ママもあなたと会えること、とても楽しみにしているよ。
だから安心して、元気に生まれてきてね。