第8章 写真
ある秋の日の放課後、俺とはストバスコートへ向かっていた。
アメリカの街はもう随分見慣れて、今歩くこの道は学校への道よりも足取りが軽い。
「タツヤー!見て見てっ」
「ん?」
カシャッ
この頃彼女は写真を撮るのが趣味らしい。
日本で言う、芸術の秋というやつか。
「また写真?はそんなに写真好きだったっけ?」
「好きだよー。今まであんまり撮ってなかっただけ」
そう笑う彼女は、先程撮った写真を見てニコニコしていた。
でもその笑顔の裏に秘めている気持ちは、俺にはわかっていた。
ただそのことを、あえて口にはしなかった。
「タツヤー!ー!遅えぞ!」
大きな声でコートから俺たちの名を呼ぶのは、シュウだ。
シュウは1年半くらい前にこちらに来て、色々と事を起こしたが日本でもバスケをしていたという事で仲良くなった。
「今日は俺が勝ち越すからな!」
「俺も負けないよ」
毎日恒例と化しているシュウとの1on1。
俺が勝って、シュウが勝っての繰り返しだ。
その勝負がどこか懐かしい。
「わっ、シュウ、危ないだろ」
「や、なんかこういう時って殴り合いかなって」
「だからって急に殴るフリしないでよ…」
「ワリーワリー!」
いつも通りのじゃれ合い。
それを見て笑う。
そしてやっぱり彼女はシャッターを切る。
俺としては、レンズ越しに見られるよりも直接見て笑いかけてほしい。
…なんてワガママ、俺には言うことも出来ないのだけれど。
「、ちょっといいか?」
その日の帰り道、シュウと別れた俺たちは2人きりになり、俺はついに彼女に話を切り出した。
なぁに?と首を傾げて笑顔を見せる彼女に、胸が締め付けられるような感覚を起こした。
「写真…そんなに好きだったっけ?」
「…またその質問?」
少々呆れ顔の。
その顔の裏に見え隠れする彼女の本音。
「俺が…日本に戻るって言ってからだと思うけど」
彼女の瞳が揺らぐ。
" 寂しい "
表情が全てを語っていた。
わかっていながらズルいと怒られるだろうけど、ごめん、俺は日本へ行くよ。
でも大丈夫、これでお別れじゃないさ。また会える。
「…」
愛しい彼女への溢れる想いを胸にしまい、俺はアメリカを発った。