第7章 秋の海
秋だ。
この季節はいろんな事に挑戦したくなる。
だがこの夏、インターハイで俺は足を故障させた。
そのため今は病院でリハビリ中だ。
来年には必ずあの場所へ戻る、そう誓って。
「ふぅ…砂浜はやっぱりキツイな…」
故障させてまだ数週間の足では、足場の悪い砂浜を歩くのはキツイ。
だけどそれがリハビリには丁度良い。
汗も良い感じにかいてきた。
「鉄平!」
ふと名前を呼ばれ振り返ると、いつも俺の看病などに献身的な幼馴染、がいた。
駆け寄って来てくれる彼女の手にはスポーツドリンク。
本当に良い奴だ。
嬉しくなって俺は満面の笑みで手を振る。
そろそろ休憩しようと砂浜に座り込む。
「すぐ汗を拭く!上着を着る!」
「わっ、はは、自分でやるよ」
「でも風邪ひいたら大変だよ」
彼女は昔から心配性だ。
だけど、それがすごく嬉しくて、俺はいつも甘えてしまう。
空は雲ひとつなく澄んでいて、そして秋の海は穏やかで静かで、時間がゆっくり進んでいるような気がする。
そしてそれを俺との2人だけが共有している感覚。
とても幸せだ。
「くしゅっ」
「、寒いのか?俺の上着着るか?」
「ううん、全然大丈夫!」
風が少し強くなってきて、少し肌寒いなと思った時、彼女がくしゃみをした。
彼女は心配性に加えて強がりだ。
唇を見てもわかるくらい寒そうで、でも俺に甘えることをしない。
唇の色を誤魔化そうとしているのか、リップクリームを塗っている。
もうバレてるけどな。
ったく、世話の焼ける幼馴染だ。
「鉄平!どうしたの?」
そっとの頭に手を置くと、驚いた顔で俺を見上げる。
強がりで優しいお前を温めてあげようかと思って、なんてそれは半分口実で、俺は彼女を自分の胸へと引き寄せた。
するとさっきまで白かった顔はみるみる赤くなっていき、腕の中でもがきながらも、本気で離れようとはしない。
それは俺にとっては答えみたいなもので。
「俺、のこと好きだよ」
「…離して、その好きじゃだめ」
「どの好きだ?好きって、1つしかないだろ?」
何かを言いたげな顔…もう、わかっただろ?
揺れる瞳。
誰もいないビーチに響く波の音。
2人の唇が自然と、重なり合う。
「、これからも側にいてくれよ」