第5章 焼き芋
「ごめんくださーい!」
とある日の昼下がり。
俺はいつも通りジャンプを読んでいた。
ら、玄関から聞き覚えのある声が聞こえ、珍しく体が素早く動いた。
「あれ?今日って依頼ありませんでしたよね」
玄関を覗く新八と神楽の前を横切り、戸を開ける。
すると、思っていた通りの人物が立っていた。
「銀さん!お久しぶりです」
「よぉ。元気にしてたか?」
「はい」
1年前、訳あって一緒に歌舞伎町を回った隣町のお嬢様だ。
どうやら今度は護衛はいないし親父の許可も得られたらしい。
「銀さん、約束は覚えていますか?」
「ああ、もちろん。けどうるせぇ奴ばっかだぞ?」
「大歓迎です!」
「そうかい」
お互いを紹介すると、早速は焼き芋を食べに行きたいと言った。
1年前にも食べたが、相当気に入ったんだろう。
「今日はちゃんと1本食わせてやるよ」
「そんなに食べられないので、半分でいいです」
「…じゃあ俺も半分でいいや」
「ワタシは1本がいいアル!」
「へーへー」
それからいろんな所でいろんな物を食べた。
意外にもよく食べる子で、見ていて面白かった。
「婚約はどうなったんだ?」
「縁談は破棄され、父上は私の望むようにさせてくれると」
「ほー。そりゃ良かったじゃねえか」
はい、と嬉しそうに笑い頬を染める彼女には、もしかしてもう想い人がいるのだろうか。
まぁ、おっさんの俺には関係の無い話だが。
そして時間はあっという間に過ぎて、西の空が紅く染まり始めていた。
「銀さん」
「ん?」
「今日は本当にありがとうございました」
「はいよ」
彼女は満足そうに笑う。
1年前の震えたお嬢さんとは別人のようだ。
「今度は私の町に遊びにいらしてください。随分良くなったんですよ」
「へー、そりゃ楽しみだ」
「新八さんも神楽ちゃんも良かったら」
「是非」
「もちろんアル!」
じゃあ、と迎えの車に向かうの後ろ姿は、もう立派なひと町のお嬢様で。
らしくもなく、少し距離を感じたその背中を追い彼女を自分の胸に収めた。
「…またいつでも呼べよ。駆けつけてやっからさ」
「…銀さん…」
「なんたって、万事屋ですから」
ニッと笑ってみせると、彼女もまたニッと笑った。
そんな顔も綺麗で、なんとなくその顔を俺は脳裏に焼き付けた。