第51章 ディストピア 前編
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ここで、俺の夢は急速に輪郭を失った。引き戻された先は、俺が俺のためにカスタマイズした檻の中―――――つまり、俺の部屋だった。
どうやら、随分と遅くまで眠っていたようだ。時計を確認すると、昼の1時過ぎ。どうやら、10時間以上も眠っていたらしい。
一応、隣を確認したが、当たり前のように、悠里ちゃんの姿は無かった。いや、いたら大問題だ。夢の中でのことが現実であれば、俺は『潜在犯』どころか、本物の『犯罪者』になってしまう。
俺は、ゆっくりと息を吐いて、ベッドから立ち上がった。
何も変わらない、俺の日常だ。
「……ん?」
どうやら、新着メールがあるらしい。コウちゃんかな?ギノさんかな?ギノさんからの呼び出しは……、できれば勘弁してほしい。そう思いながら、執行官デバイスを操作する。
「……!」
差出人は、悠里ちゃんだった。
『秀星くんへ
山田さんから、またお菓子をいただきました!
今回は、天然モノのじゃないけど、
有名製菓店の、人気プチシューセットだって!
今日にでも、私の仕事終わりに届けたいけど、大丈夫?
時間が空いたら返信ちょうだいね!』
一体俺はどんな顔して悠里ちゃんに会えばいいのやら……。
そう思いながらも、俺の口元は緩んでいた。
それじゃあ、俺もいっちょ、久し振りに張り切って、腕を振るいますかね!
あとは……、まぁ、何事も無かったかのように、悠里ちゃんを迎えよう。
……この日常を、ほんの少しでも長く、確かなものとして感じるために。