第42章 メイド・イン・ラブ Ⅰ
「ったく……。お前らと外出して、予定時間通りに公安局へ戻れた例(ためし)が無いな……。ったく……、ただでさえ監視官は多忙だというのに、世話のかかる犬共だな……。」
ギノさんは、ぶつくさと文句を言いながら、市街地を歩いている。
まぁこれは、執行官の外出の同伴という、監視官としての仕事を果たした帰り道だ。執行官にとってはオフだが、監視官にとっては職務そのものだ。
「まぁ、そう言うなギノ。これだって、監視官の大切な仕事のひとつ、だろう?それに、お前だって欲しがっていた外套が買えて良かったじゃないか。」
「そーそ!それに、俺が紹介した店だって、美味しかったっしょ?また行きましょーよ!ねっ!」
「「ねっ!」じゃない、縢!クソ……余計な時間を費やしてしまった……。狡噛も狡噛だ。トレーニング用品など、ネットで適当に注文すれば、それで済む話だろう。それを、あんな武骨な店で1時間も粘るなど、完全なる時間の無駄遣いだ!ただでさえ刑事課の人手不足は深刻で、監視官である俺には仕事が溜まっているというのに……!」
ギノさんは、カリカリしながら、足早に街を歩いている。そんなギノさんの後ろを、コウちゃんが落ち着いた態度で歩いている。さらにその後ろを追うようにして、俺が歩いている。
「俺たち『犬』だって、たまには息抜きが必要ッスよ!それにギノさんだって、あんまりカリカリし過ぎると、濁っちゃいますよ、色相!」
冗談にもならない冗談を飛ばしながら歩く。『健康』な『市民』様たちの街を歩くのは、正直微妙な気分だ。でも、外出というのは、それだけで気分がいい。俺らは『檻』に収容された『首輪』と『鎖』付きの『犬』。監視官の同伴付きとはいえ、外出ができる機会など滅多にあるわけではない。
「フン、色相が濁りきっているお前らには言われたくないな。」
「んもぅ、冗談ですって!」
「無駄口を叩く暇があるのなら、明日からはもっと丁寧に時間をかけて報告書を作成しろ。大体、お前の書く報告書は、ほぼ例外なくゴミだ。報告書を作成するにあたってはだな、お前はもっと読み手のことを考え、誠意を込めて……」
突如お説教を始めたギノさんを半ば無視して脇見をした先には、可愛らしいピンクの屋根に、黒猫の看板。恐らくはホロでできているのであろうが、なかなかに小洒落た外装の店。俺の興味を引いた。どうやら、服屋のようだ。