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薄桜鬼~いと小さき君の為に~

第4章 君の存在~藤堂平助編~


「平助、ほら…起きて!」

その声と同時に布団を剥がれた俺は、不機嫌さを顕にして声の主を睨み付けた。

「……何だよ。俺は朝方に寝たばかりなんだよ。
 もう少し寝かせろよ………」

「どうせまた呑んでて朝帰りだったんでしょ?
 そんなの、あんたの勝手じゃない。
 とにかくさっさと朝御飯済ませちゃってよ。
 片付かないでしょ!」

「………ちぇ、分かったよ。」

俺は仕方無くもぞもぞと起き出した。


俺を叩き起こしたこいつは志信。

御陵衛士の屯所に住み込みで働く女中だ。

どうやら伊東さんの遠縁にあたるらしく、伊東さんがこの屯所を立ち上げた時に女中として連れて来たって聞いた。

俺と同い歳だけど、俺に対する態度は完全に歳上のそれだ。

「お前さあ…何でそんなに偉そうなんだよ。
 女中の癖に……。」

「女中の癖に…って何よ?
 私はね、伊東さんからお給金を戴いてるの。
 あんたに雇われてる訳じゃないんだからね!」

「はいはい。申し訳ありません。
 朝御飯、戴いてきます。」


俺と志信はいつもこんな感じだ。

何でも言い合えて、気を遣わなくて済む志信と一緒に居ると思い出したくない事も忘れられるようで楽しい。


一人で遅い朝飯を食べていると「はい」と志信が味噌汁を持ってきてくれた。

手に取ってみると、今作ったみたいに熱々だ。

多分、俺の為に温め直してくれたんだろう。

「悪いな。」

「いいから。早く済ませちゃってよ。」

そう言って志信はまた忙しそうに勝手場に戻って行った。

こういう所が姉さんっぽいんだよな。

解れたままの洗濯物を出せばちゃんと繕われて戻って来るし……

文句を言いながらも常に優しい。

俺は兄弟が居なかったから、たまに姉さんの話をする土方さんや総司が少し羨ましかったけど……

「姉さんが居たら、こんな感じなんだろうな。」

俺はそう呟いて、熱々の味噌汁を啜った。
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