第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~
「探したぞ…佐伯。」
その晩、俺と総司は新選組から脱走を謀った隊士を追っていた。
本来なら脱走した者は捕縛し、屯所へ連れ帰って審議をするのが筋なのだが、今回の脱走者佐伯に付いては山崎の調べで長州の間者であった事が判明している。
なので副長からも手向かうようならその場で斬っても致し方無いと指示が出ていた。
総司と二人で長州の奴等が身を潜めていると噂のある宿場近辺を捜索していると、直ぐに佐伯の姿を見付けた。
細い路地から出て来た佐伯に声を掛けると、真っ青な顔をして「…斎藤さん」と震える声で俺の名を呼んだ。
「あーあ……見付かっちゃったね、佐伯君。」
俺の背後から総司も現れた。
「……諦めろ、佐伯。」
佐伯は三番組に所属していた。
三番組組長の俺は其れなりに佐伯に目を掛けていたから、長州の間者だと分かった時には裏切られた気持ちになった。
そのせいで多少なりとも冷静さを欠いていたかもしれない。
「大人しく捕まるならば、後々腹を切らせてやる。
今此処で俺に斬られるよりは良いであろう。」
「違うんだっ…斎藤さん。俺の話を聞いてくれ。」
佐伯が必死の形相で訴え掛けてきたが
「問答無用だ。」
俺は冷たく突っぱねた。
「佐伯君……あんまり一君を怒らせない方がいいよ。」
穏やかな声で言いながらも総司からぴりぴりとした緊張感が発せられる。
俺達が聞く耳を持たない事を理解したのか、顔を歪めた佐伯が「くそっ…」と呟いてすらりと抜刀した。