第1章 -読書の秋-
「またマイちゃんの写真集ー?」
部活がお休みの秋晴れの日曜日。
わたしは監視も兼ねて、大ちゃんの部屋に来ていた。
ほんとは一緒にいたかっただけなんだけど。
大ちゃんは、わたしがいてもベッドに寝転んで、マイちゃんの写真集を見ている。
「あん⁈うっせぇなぁ。つぅか、何しに来たんだよ?」
「大ちゃん、ヒマだろうから、遊んであげようと思ってー。」
「ヒマじゃねーよ!
こうやって読書してんじゃねーか。読書の秋だろ♪」
「写真集は本じゃないでしょー?」
「写真だって立派な芸術だろ?」
大ちゃんはまたわたしに背を向け、マイちゃんの写真集の続きを”読む”。
「ほんとに写真集とマンガばっかり。」
わたしはやるコトがなく、なんとなく大ちゃんの本棚を眺めていた。
「あれ?コレなぁに?絵本?」
ふと本棚の1番下の隅っこに可愛らしい小さな絵本が1冊だけあるのを見つけた。
「あん⁈絵本なんてあるかよ。」
大ちゃんはわたしに背を向けたまま、そっけなく言う。
「でも、あるもん。」
わたしは大ちゃんのことばは無視して、その絵本を開いた。
「”きみのおなまえは?”
”あおみねだいき”
”なんさいですか?”
”5さい”
ふふ…カワイイ。大ちゃん、”ね”がヘタクソー。」
それは子どもが質問にこたえて、ページを埋めていく絵本で、青い色えんぴつで大ちゃんらしい大きなひらがなでこたえが書かれていた。
そのあともすきな食べ物などいろいろなコトが書かれている。
ガバッ…
「うわっ⁉︎どうしたの?」
突然大ちゃんがすごい焦った顔をして起き上がった。
「すみれ!それもうやめろ!返せっ!」
「えっ⁈なんでー?」
「ガキの頃のなんか恥ずかしいだろ⁈」
「いいじゃない。可愛いよ。」
大ちゃんは絵本を取り上げようとしたが、わたしはそれをかわし、最後のページを開いた。
「なになにー?”すきなひとは?”」
…⁉︎
「大…ちゃん…コレ…」
「それ…今も変わってねーから。」
恥ずかしそうに拗ねた大ちゃんが
ボソッと言った。
「大ちゃん…‼︎」
読書の秋に見つけたステキな絵本…
”すきなひとは?”
”すみれ”
最後のページの質問のこたえには、大きな大きなひらがなでわたしの名前が書かれていた。
---End---