第9章 -写真-
日本ではもう秋なのに、アメリカでは紅葉を見るコトもない。でも、わたしはやはり日本で生まれたからだろうか?この時期はいつも秋の憂いのようなものを感じる。
今年はいつも以上に…。
「タツヤー!見て見て♪」
「ん?」
カシャッ
ストバスのコートに向かう途中、露店に置いてあった置物を手に取り、タツヤを振り向かせ、その瞬間のタツヤの顔をカメラにおさめる。
また…新しい瞬間のタツヤだ。
「また写真?すみれはそんなに写真好きだったっけ?」
「好きだよー。今まであんまり撮ってなかっただけ。」
いろんな瞬間のタツヤをわたしの中に少しでも留めておきたい。でも、そんな想いはタツヤに言えない。
タツヤはもうすぐ日本に戻ってしまうから。
だから、秋の憂いをいつも以上に感じているのだろうか?
「タツヤー!すみれー!おせぇぞ!」
「シュウ!」
ストバスのコートに着くと、シュウが待ち構えていた。
「今日はオレが勝ち越すからな!」
「オレも負けないよ。」
カシャッ
殴り合うふりをしながらじゃれ合う2人をわたしはまた写真におさめた。
「すみれ、なに撮ってんだよ?」
シュウが怪訝そうに聞いてくる。
「ん?なんとなくねー。」
今日も2人がプレイしている間、わたしはカメラのフィルターばかり覗いていた。
夕方になると一気に冷え込んできて、薄暗くなってきた。楽しい時間はあっというまだった。
帰り道、途中で家の方向の違うシュウと別れ、またタツヤと2人きりになる。
「すみれ、ちょっといいか?」
「なぁに?」
タツヤがいつもと違う気がした。でも、わたしはそれに気付かないふりをしてタツヤに笑顔を向ける。
「写真…そんなに好きだったっけ?」
「…またその質問?」
「急にだよね。」
「…そうかな?」
「オレが…日本に戻るって言ってからだと思うけど。」
…ドキッ。
「なんで?」
タツヤがわたしに詰め寄ってきた。
「なんでって…」
…言えないよ。
写真におさめれば…タツヤの笑顔は消えないでしょ?
写真のタツヤは…いなくならないでしょ?
そんなこと…これから日本に戻るタツヤに言えない。
だから…せめて写真だけ…。
写真だけでも…わたしに残して。
タツヤを笑顔で見送るために…。
---End---