第2章 助けて下さい、月山さん。
思えば、忠告されたのにも関わらずに一人で出掛けたのがいけなかった。学校に行くくらい一人で大丈夫だ、って考えが、甘かった。
「美味しそうな匂いがするナァ?人間、カ?それとも、仲間カ?」
もう数メートルで学校に着くという所で、そう声を掛けられた。相手は格闘技でもやっていたのか筋肉質な男だった。喰種、だった。
「っ...!!く、来るなっ!」
思わず叫んだ僕を彼はじぃっ、と見つめた。次の、瞬間。ダンッ!と僕は喉を捕まれて壁に押し付けられた。
「かは...ッ!」
苦さから涙が滲み出てきた。が、咳き込みながら僕は彼を睨み付けた。一人で戦わなくちゃいけないんだ。この場には誰もいない。僕一人で何とかしなくちゃいけないんだ。屈するものか。
「もう一度、聞ク...お前は人間カ、喰種カ?」
「僕はッ...!」
愚問だった。人間か、喰種かだって?僕が何者かは僕にだって分からない。現に僕の眼帯の下の瞳は黒く赤く輝いていて。でも、でも。僕は。
「人間だッ!!!」
「そうかァ。なら...」
喰べても、良い、かナ?
彼はそう言うと僕の肩にかぶり付いた。びしゃびしゃと血が溢れ、焼けるような痛みが広がる。
「っ、があぁぁッ!ぅぐ...ぁっ...!!」
声にならない絶叫が僕の喉から迸った。男は旨そうにそれを、僕の肉を咀嚼し飲み込む。ゆっくりと舌なめずりし、唇に着いた血すらも飲み干す。
「お前、旨いナ...本当に人間、なのかァ?」
彼の指が僕の左眼に触れた。ぶちッ、と音を立てて眼帯の紐が引き千切られる。はらりと落ちる眼帯を見ていると、男がほぉっ、とため息を吐いた。
「隻眼の喰種...初めて見たナ...伝説上の物だと思っていたガ...」
長い舌で頬を舐められる。