第15章 【あなたの名字】菊丸英二
「英二くんの名字っていいよね、うらやましいな。」
放課後の2人きりの教室で、クラスメイトの小宮山が、そう言ってオレの顔をのぞき込む。
菊丸が?なんでさ?そう不思議に思って問いかけると、だってキレイなお花の名前だもんって彼女は目を輝かせる。
「菊、だよん?いっちゃ悪いけど、仏花じゃん?」
そう言うオレに背を向けて、それはそうだけど・・・と窓辺まで歩みを進めると、でもね、と言って立ち止まり、それからクルッと振り返る。
「菊もヒマワリもガーベラも、コスモスもデイジーもマーガレットも・・・みんな、みーんな菊科のお花だよ?」
そう彼女は花の名前を指折り数えながら、他にもたーっくさん!と大きく手を広げる。
「キレイなお花、たくさん菊の仲間だよ?英二くんの名字のお花だよ?」
そう言ってニコニコ笑う彼女の笑顔に思わず見惚れてしまい、恥ずかしくて慌てて目をそらす。
「んじゃさ・・・小宮山も『菊丸』になる?」
思わずそう呟いて、やっべ、と口をおさえると、彼女はキョトンとした顔をして、それってプロポーズ?とクスクス笑う。
流石に順番とばし過ぎ?そう言ってオレも笑うと、そうだよって彼女も笑う。
2人でしばらく笑いあい、そして訪れた沈黙で、あのさ、と頬を指でかきながら、彼女にそっと問いかける。
「・・・オレたち、付き合わない?」
すると彼女はまるで花のように愛らしく笑った。
【あなたの名字】菊丸英二