第5章 【うさぎ】向日岳人
放課後の教室で、私たち何をするでもなく、ただ向かい合って座っていた。
彼はただ頬杖を付いてぼけ~っと窓の外を見ていて、私は髪の毛を一つまみ手にとって、なんとなく枝毛なんて探してみたりしていて、まさに、まったり・・・そんな雰囲気だった。
「岳人ってさ~・・・うさぎって感じだよね。」
「はぁ?お前、何言ってんだよ?」
別に深い意味もなく口に出してみただけなんだけど、ガクッと顎から手が外れ、物凄く慌てる姿があんまり可愛いものだから、な~んか虐めたくなっちゃうじゃない?
私はぐいっと身体を前に乗り出して彼の顔を覗き込んだ。
「いや、耳つけたら似合いそうじゃない?可愛くて。」
「バ、バカ言ってんじゃねーよ!」
「あ、照れてる?」
「う、うるせぇ!」
まるでウサギの耳のように、両手を頭の上に載せ、ぴょんぴょん、と手をパタパタさせると、彼は膨れっ面でそっぽを向いてしまった。
「岳人?」
「・・・」
「・・・がっく~ん?」
「・・・」
呼んでも全然答えてくれない彼に、ちょっと虐めすぎたかな?と不安になったそのとき、彼が私のほうをチラッと見て口を開いた。
「い、いいか、ウサギはな、寂しいと死んじまうんだぞ!」
「うん?」
「だから・・・俺も寂しいと死んじまうんだよ!」
「は?」
そんな突拍子もないことを言うものだから、その言葉の真意がすぐに理解できなかった私にしびれを切らしたのか、
「だ~か~ら~、1人にすんなって言ってんだよ!」
・・・なんて耳まで真っ赤にして言うものだから、その様子に思わずプッっと噴出してしまったではないか。
「あ、お前、今、笑いやがったな!?クソクソッ!もういいぜ!」
「ふふっ、ゴメンゴメン。」
「フン!」
「まぁまぁ、しょうがないから一緒にいてあげるよ。」
「わ、わかりゃいいんだよ!」
真っ赤な顔でまたそっぽを向く彼が可愛くて、しょうがないから、なんて強がってみたけれど・・・
でも本当はね・・・?
1人にされたら寂しくて死んでしまうのは私のほう。
そのくらい私は彼が愛おしいのだけれど、まだまだ可愛い彼を見ていたいから、
そのことはもう少し、もう少しだけ内緒なの____
【うさぎ】向日岳人