過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 後編】
第32章 『心臓』
「ナナシ、大丈夫かっ!?」
苦しそうに咳き込みながらも『心臓』を離さないナナシに
エルヴィンの心がチリっと痛む。
守るように抱き締められている『心臓』にすら嫉妬心を抱くとは
我ながら心が狭いとは思うが、これがナナシの元恋人のものであるのだから
仕方無い。
取り敢えずナナシの身体を座席に横たえさせると、
手に力が入らないのか彼の手から心臓の容器が零れ落ちた。
それを寸での所でエルヴィンがキャッチする。
取り戻した『心臓』をまじまじと見つめれば、
あのイカレた元・迅鬼狼メンバーによって三分の二程まで
削られたにも関わらずそれは脈動を続けていて、
エルヴィンはゾクリとした。
世の中にこんな不気味で不可思議な物が存在するのかという意味での
悪寒ではない(巨人という存在もあるし)。
何か・・・自分に訴えかけてくるような『何か』を感じたのだ。
「・・・・・・・・・・・」
そっと容器に手を這わせてみると、心臓がドクリと大きく
跳ねるように動いた。
まるで自分に反応しているかのようでエルヴィンは思わず
ゴクリと喉を鳴らす。