第4章 人と人ならざるもの、弐
「……ごめん」
あまりにも単純な謝罪の言葉に、アスミの脳がついていかない。しばらく放心状態だったが、慌てて「あたしこそ、きつく言いすぎた」と自分の非を伝えた。
狐優はまだ迷っている素振りを見せていたが、今度は花音に向き直った。
「……君も、ごめん……」
「ううん、大丈夫! 気にしてないよ!」
花が咲いたような笑顔になる花音。
狐優は、しばらくアスミと花音を交互に見ていたが「そういうことだから」と言い、走り去っていった。
あとに残された2人は、ぽかんとするしかない。
――え、何、あの狐優って奴……。
――謝ってくれた……んだよね。
なんだかいろいろ複雑な気分になるアスミ。すると花音が立ちあがった気配がした。
「それじゃ、中に入ろっか! 私は良くても、アスミちゃんが風邪ひくといけないし」
「……そう、だね……」
ぼんやりとそう呟いたとき、森の奥から、ドン、という低く体の内側に響く音がした。
アスミは反射的に立ちあがり、周りを見る。
そのはずみで、ブレスレッドが手首から落ちた。
「……?」
顔を見合わせるが、それ以上何も聞こえてこない。
特に気にせずに家へと戻ろうとした時、アスミの背中を冷たい悪寒が這い上がった。
「!」
息をのんで、周りを見る。アスミの突然の行動に、花音が「どうしたの?」と声をかけた。
この悪寒と視線を、アスミは覚えている。
数日前の予知夢で感じた悪寒と、柘榴の屋敷で感じた視線。この2つが合わさった気配に、アスミの脳が警笛を鳴らす。
「早く家の中に入って!」
「え、な、何……?」
「早く!」
厳しく命令するように、アスミが花音に言葉を叩きつける。
花音は尋常じゃないアスミの声に、慌てて壁をすり抜けて家の中に入った。
アスミもすぐにでも逃げ出したいが、下手に動くと危険な事がわかっていた。
気配はする。だが、相手の姿が見えない。
それがアスミを焦らせていた。
森の中をじっと見つめていると、小さな2つの赤い光がいつの間にか灯っていた。