第17章 キライ、でも、スキ 【黄瀬涼太】
(ま、どーせすぐ出てくるでしょ)
部屋に籠るが数時間後にはひょっこり部屋から出てきてごめんと謝るのがいつもだ。
今回もそうだろうと思い、ソファに寝転がって携帯を触る。春乃が出てくるまでの間、ゲームをするためにアプリを開いた。
(……遅いな)
そろそろ部屋から出てきてもいい頃だというのに一向に出てこない。
さすがにこれはまずいと思い、春乃の部屋に足を向ける。
そして部屋の前まで来れば遠慮気味にドアをノックする。
「春乃、そろそろ出てこいッス」
「いや」
俺が「出ておいで」とか「一緒にご飯作ろう」といっても、「いや」の一点張り。
「まだ怒ってるんスか?」
扉越しから話しかけても返事はない。
どうしたものか。今回はあっさりとは許してくれないらしい。
「…ご飯、作って待ってるからとりあえず部屋からは出ておいで」
そう言い残し、春乃の部屋の前から台所に移動して冷蔵庫を開けて材料を確認する。
しばらく何を作ろうか考えて、ひき肉と玉ねぎを取り出す。
「今日はハンバーグにしよう」
手際よく下ごしらえを済ませ、ひき肉と玉ねぎを合わせてこねる。
ハンバーグの形にすればそれを熱したフライパンに乗せて焦げないように様子を見ながら焼いていく。
そして焼けたハンバーグを皿の上に乗せ、その横にサラダを盛り付けて完成。
「うん。美味しそう」
ハンバーグをテーブルに運び、ご飯と汁物を次にテーブルに運んだ。
そしてまだ現れない春乃を呼びに再び春乃の部屋の前へ行く。
「ご飯、出来たっスよ」
ノックをしつつ言えば、返ってきたのは「いらない」の一言。
「わかったッス。置いておくから食べてね」
いらないと言われ少し心が痛むが仕方ないと思い、テーブルに並べた春乃の分のご飯にラップをしておく。
1人、手を合わせて「いただきます」と言い、静かな部屋で1人黙々とご飯を食べた。
今回は相当ご立腹のようでここまでくればもうお手上げ。
春乃の気が済むまであのままにしておく他ない。
食べ終わり、食器を水に浸して風呂に入る。
軽くシャワーを済ませて、いつもするドライヤーも今日はする気になれず濡れた髪のまま自分の部屋へと行き、ベッドに寝転ぶ。