第63章 【強制送迎宣言あるいは混沌】
縁下力、田中龍之介、清水潔子、谷地仁花、そして縁下美沙の一行が結構あちこちで食べ歩いたりした頃合いである。
「あ、私ちょい飲みもん買(こ)うてくる。また喉渇いてもた。途中自販機あったやんね。」
美沙は言った。そのしばらく前も飲み物を飲んでいたのだがすぐ乾いてきてしまったのだ。
「皆さんはどないします。」
他の皆は自分は大丈夫だと言う。
「ほな私行ってくる。」
「1人で大丈夫か。」
案の定義兄の力が心配した。
「うーんと多分。兄さんはこっちいたげて、綺麗どころとすぐ威嚇する人ほっとかれへんでしょ。」
「縁下妹、てめーっ。」
「田中、図星をつかれたからって美沙を威嚇するな。」
「綺麗どころなんてわわわ私そんな。」
「仁花ちゃん、そんな事言わないで。」
「ほな皆さんちょい待っててください。」
美沙は行ってトテトテと自販機があった方へ歩き出す。義兄の力があ、ああと心配そうに呟くのが聞こえるが振り返らない。いつもいつも義兄にくっついてもらってばかりでは何となく自分自身に良くない気がした。
が、残念ながらお約束通り縁下美沙はやらかすのである。
「あかん、兄さんら見失った。」
飲み物を買った美沙は自販機の前で呆然と立ち尽くしていた。人が多い中で元来た方向を見失ったのである。
「ど、どないしょう。今すぐ電話しても会場のどっち側とかなんとかも全然わからんから説明でけへん。」
1人焦って関西弁でひとりごちる様ははたから見たら不審に思われそうだ。それでも美沙は考えた。兎(と)にも角(かく)にもここは視界が悪いし自分が義兄に説明できるような目印になるものもすぐには見当たらない。わかりやすそうな場所に移動しようと思いたって歩き出した時だった。
「あっ、もしかして美沙ちゃんっ。」
もしかしなくても自分は美沙であるが聞き覚えのある軽いノリの声に美沙はまずいと思った。
「こんなゴチャゴチした中でよく見分けつくな、おい。やっぱおめえは変態という名の紳士決定な。」
「だから岩ちゃんっ、どこぞの熊と一緒にしないでってばっ。ってゆーか美沙ちゃーんっ、無視しないでよーっ。」