第1章 【再び始まる物語】
おばあさん、ごめんなさい。この子がいいんです。絶対大事にしますからどうか許してください。
少年は何度も何度も今は亡き人に対して祈るように心の中で繰り返す。血の繋がりのない妹に対して前から危ないと部活仲間に心配されていた彼はとうとう一線を踏み越えた。
その名を縁下力という。
縁下力には少し前に義理の妹が出来た。旧姓薬丸美沙、本当の両親は生まれた時に既に他界、15年を母方の祖母に育てられ、その祖母も他界して今度こそ身寄りがなくなったため生母の友人であった力の両親が引き取ったのである。
見た目は大人しく、真面目で人見知りなので表情も固いことが多い。しかし祖母の影響で基本の言葉は関西弁、スマホ大好きのオタクで動画投稿者、繊細で優しい一面を持ち、そうかと思えば半分ボケでちょくちょく面白い発言をするというギャップの激しさは一緒にいて飽きない。
しかし力にとって一番重要なのが、この義妹が自ら力の言うことなら大方は聞き入れ、力を傷つける者がいれば自身を顧みずに突撃するくらいの愛を示しているところだった。
このせいで穏和で他との調和を重んじ、部活の後輩達にも慕われている割に今でもどこか自分に自信がない縁下力にとって義妹は、いや、美沙は多少意見の違いはあれど自分を否定しない、必ず側にいる絶対的な存在になったのだ。
そのことは烏野高校男子排球部の常識派である少年を義妹が絡んだ時限定で狂わせた。仲間にどれだけおちょくられようとも自身の事を後回しにする美沙の傾向を心配してこれでもかと過保護にし、男子が義妹に触ろうとすれば怒り、他校の物好きがちょっかいをかければ警戒し、挙げ句の果てにはあまりお洒落に執着のない義妹にブレスレットをくれてやりこっそり束縛する始末だ。
また当の美沙も大抵は受け入れてしまうときている。亡くなった祖母が多少厳しくも箱入り娘に育ててしまった為にやや鈍いのか。
そんな箱入り娘と兄妹の線を越えてしまった事は縁下力にとって後ろめたいところがもちろんある。両親に対しては当然、亡くなるまで美沙を大事に育てていたという美沙の祖母に対してもかなり後ろめたかった。