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古きパートナー

第18章 殺伐の春


仁王側

耳元で言われた瞬間に俺の体が一瞬だけ凍った

氷月の言った台詞には何も違和感がないが

その微妙に楽しそうな声音と冷たさに

俺の心臓が一瞬だけ鼓動をやめた感覚になった

手首を掴まれ走ってる氷月の後姿は見えんかった

勿論、視界に入っておった

じゃが、俺の知っておる氷月の後姿じゃなかった

太い電柱の裏に隠れ俺を電柱に押し付ける

自然と俺の体から自由が奪われた

すぐに氷月の体を押し付けられたからじゃ

息を整える暇さえ与えてくれん

口元を覆う彼女の白く細長い指が冷たくて

俺の背後を見る氷月の眼付きは、今までと違った

俺の体は脳からの命令を全て拒絶し、氷月の指示に従った

自然と薄れる気配、後ろから迫る恐怖、目の前の魅惑

俺が俺で無くなる瞬間を味わった

走った事によって心拍数が上がり

また目の前の人物にも胸が高まる

そんな氷月の体からも緊張が走っておった

表情に余裕が見られん

無表情の中にコイツを理解すれば

コイツの無表情にも多少は表情があるのを知った

優真は長年の付き合いでわかったんじゃろうな

氷月の体からも鼓動が聞こえる

じゃが、その鼓動は静かじゃった

コツコツと2つの音が聞こえる

それはすごくゆっくりに頭の中に響いておる

『......』

氷月は見る、相手の表情をを、相手の格好を、相手の真の姿を

俺は見たくても見られない

それは俺が弱いからじゃ、見たら後戻りできんような気がして

じゃが氷月の敵は俺達の敵となる

じゃから無理に顔を動かそう、後ろを見ようと

『ダメです』

口を覆っておった氷月の手は俺の両目を隠した

声音にも余裕がない氷月は俺よりも数倍怖い思いをしているじゃろうに

なのに、俺は...

?「...見失ったか」

?「また機会が来るよ。それよりもナイフを回収しないとね」

?「何処に隠したんだろうね。あの殺人鬼は」

女性らしい声が2つ聞こえ、余裕な発言を声音は俺を恐怖に陥れるには十分じゃった

ドクドクと自分の早い鼓動、笑う足

全く、みっともないぜよ

2人の足音が遠ざかり目隠しが外された

氷月の無表情から、少しだけ笑っておった
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