第4章 第二章 一部
「じゃあ──」
鉄筋を握りしめたクロさんが女に近付く。直後、何かを突き破るような音が聞こえたが、女から目を背けていた為、うまく状況が把握出来ない。
「ひっ……ぎゃあうああああ──」
思わず耳を塞ぎたくなるような金城り声が廃墟中に響き渡る。
「うるせえっ!!」
あまりの煩(うるさ)さに機嫌を損ねた高松さんが、女の顔を思いっきり殴った。
(……ああ、終ったな)
この時点で、この女の死は確定したようなもの。
内股から垂れ落ちる赤黒い液体。薄暗い証明に照された女の顔は涙でグシャグシャ。
俺はその女が気の毒に思えた。
なにせ、ここへ来た時の彼女は『子供が好きだから保母さんになりたい』と、嬉しそうに夢を語っていたのだから。
「あ~、気が変わった。めんどくせえ女は、今すぐ始末しよう」
案の定、高松さんが“女を殺す”と、言い始めた。
「だず……で、がぞ……るの──」
女は必死に命乞いをしているが、そんな泣き言が高松さんに通用する訳がない。
「あー? 今なんか聞こえたかあ? 聞こえねえよなあ」
わざとらしく訊く高松さんは誰の返事も訊かず、いつも携帯しているバタフライナイフを右手に握りしめ大き く振りかざす。そして彼は、女の心臓目掛け一気に降り下ろした。