第2章 櫻井翔の場合。
「、なあーにしてんの」
「…あ、翔くん」
「早く下来いよ。みんな写真とってっから」
「うん、もう少ししたら、行こうかな」
「ふーん、わっかりやすいなあ」
「な、んですか」
そう言って腕組しながらニヤニヤする彼を睨みつけると、あははっと笑われた。
パシッと軽く頭を叩かれる。
「いて」
「なあに、しんみりしちゃって。
らしくねぇなあ」
椅子に座る私を見下ろす翔を見上げた。ふっと、優しく目を細める翔が私に聞く。
「寂しいの?」
「さ、寂しくないけど。」
「またまたぁー、あまのじゃく。」
クラスメイトの翔くんはこうやっていつも私を知ったように振舞ってくる。
確かに、読まれてる!くやしい!同じ年なのに!
「翔くん、ほら、もう行った行った。
見て、後輩たちがあなたを待ってますよ」
3階の教室から下を見ると、卒業生を待ちわびた女子たちがソワソワしている姿が目立つ。
そう、卒業式は女子にとっては一大イベント、大好きな先輩のボタン争奪戦だ。
「俺?なんで俺?」
彼も窓から顔を出して、私と一緒に下を見る。その姿に気付いた女の子達から、キャアっという歓声が上がった。
「ほら、お呼びですわよ」
「あらまあ、じゃ、ちょっくら行って来ますわ」
そう言って教室を出て行く彼。
「も早く来いよ?
あんま1人で湿っぽいことしてっと、
許さないから」
「あはは、怖いなあ」
「下で待ってっから」
「はいはい」
彼の背中を見て思った。
ねえ、翔君
そのボタン、あの子達と同じように
私にもくれませんか?