第9章 令と悠
「あっいた。兄さん!」
令は廊下にいた。
「伯耆…桃は?もう行ったのか?」
令は悠を名前で呼ばない。悠を弟としてではなく、同志として接しているからだ。
「ううん、まだ。ねぇ兄さん、『悠』って呼んで。」
「どうしてだ?」
令はポーカーフェイスをまだ崩さなかった。
「最後だから…」
珍しく驚いた顔になった。
「なっ…」
「桃と一緒に人間界に行くんだ。兄さんも義姉さんが出ていくって言ったら、付いてくでしょう?」
その気持ちが令にはよく分かった。
「そうか…分かった。じゃあな、悠。」
「…うん!じゃあね兄さん!」
悠の目は涙ぐんでいた。