第6章 走り出せ!
◆◇◆◇◆◇◆◇
「……危なかった……怪我はないか?」
ルートは腕の中の少女に声をかけた。
――地震の直前、ルートは少女の近くにいた。
具合悪そうな少女に、声をかけようとしたのだ。
それに、あの彫像はいつ倒れるかわからない代物らしい。
注意を促そうとして――地震が起きた。
少女が地面にうずくまり、彫像がかしいだのを目にする。
揺れにも構わず、彼は一目散に駆け寄った。
動かない少女を抱きかかえるようにして、その場から転がり出た。
一瞬でも遅れていたら、女神像のキスは紙袋ではなく、少女に降りかかっていただろう。本当に間一髪だった――。
「おい、大丈夫か?」
起き上がり、無反応な少女を訝しんだルートは、少女の肩をたたく。やはり反応はない。
しばしのためらいのあと、顔にかかる髪をどけると、まだあどけない寝顔がそこにあった。
気を失っているらしい。
しかし、妙に頬が紅潮している。
ルートは少女の額に手を当ててみた。
「……やはり熱があるな」
少女は荒い呼吸を繰り返している。どう見ても病人だ。
かく言うルートも風邪気味だったが、軽々と少女を抱き上げた。
「まさかとは思うが――いや、それはないか」
浮かんできた考えをひとまず端に追いやり、ルートはその場をあとにした。