第40章 疑心または月夜にて
流れる風景を眺めながら、どうして、と思った。
まるで彼らは、私が来ることがわかっていたみたいだったからだ。
「……」
無意識に唇を噛む。
なにかが変だ。
“20時59分”を見たときから、21時のアナウンスを聞いたあのときから。
いつもと違う顔で世界が動き出していた。
しばらくののち、車がとまる。
開かれたドアのむこうには、もう何度か見たことのある扉があった。
会議場についたのだ。
案内されるまま歩を進めると、扉のすぐ内側に人影が立っているのが見えた。
息を切らして走ってきたとみえるその人物は、
「――来て、くれたんだね」
アルフレッドだった。
その瞳を見て、世界から音が消える。
Hello! と元気よくハグしてくるわけでもなく。
待ってたんだぞー! と太陽みたいに笑うでもなく。
たった今綱渡りを終えたように、どこか茫然として、安堵の表情を浮かべていた。
――アルフレッドまでもが、なにか違う。
ざわざわという喧噪が耳に戻ってきた。
聞き慣れた声が話しているのも聞こえる。
――なら私は、せめていつもどおりでいよう
「お待たせしちゃって、すみません」
精一杯明るい声で、にっこりと笑顔を浮かべてみせた。