• テキストサイズ

深海のリトルクライ(アルスマグナ/九瓏ケント)

第6章 堕ちる心と昇る泡


「 さんですよ、ウチのクラスの。」

遠巻きから見守っていた泉が、先生にそういう。
「ちょ、泉!」
さすがにこれは彼女にとってアンフェア過ぎる、そう思い先生に否定の言葉を紡ごうとしたとき

「あー、ちゃんかぁ、良い感じだったもんね~」

先生はいつも通りににこやかに部室に入り、奥の椅子に座る。
いつもより強く香るタバコの匂いに、ほんの少し違和感を感じつつ、先生に目をやる。

「よかったねアキラ、長い間好きだったみたいだし。」
「!、なんで知って…?」
「見てたらわかるよ~、ね、泉?」
先生は隣に立っていた泉に同意を求めると、泉は呆れた顔でメガネを上げた。
「気づかれていないと思っていたあなたの方が不思議ですよ、アキラ。」


(あ、れ)


「…そ、っか。」

俺はゆっくりとタツキ先輩を離し、先生を見つめる。

「そうだそうだ!日直でもあんなにいちゃついて!」
「え~先輩ずるい!先輩、一年生の間でもそれなりに話題ですよ!」
「明日から夏休みで、これからイベントも結構あるし…部活終わったら景気づけにご飯でもいくか?」
「マジでー!先生好き!」
「いいねいいねっ!アキラっちょのお祝いもかねて行こ~!」
「…悪くはありませんね。」

俺を差し置いて、ドンドンと話が進む。

「いいだろ?アキラ!」

「は…い」

(なぁ、センセ)
(なんで、目、笑わねーの?)

俺はその時確信した。

先生と生徒、って立場がどんだけもどかしいものなのか、
出会いのタイミングって、どんなに複雑なものなのか、を。


*
/ 78ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp