第6章 堕ちる心と昇る泡
「 さんですよ、ウチのクラスの。」
遠巻きから見守っていた泉が、先生にそういう。
「ちょ、泉!」
さすがにこれは彼女にとってアンフェア過ぎる、そう思い先生に否定の言葉を紡ごうとしたとき
「あー、ちゃんかぁ、良い感じだったもんね~」
先生はいつも通りににこやかに部室に入り、奥の椅子に座る。
いつもより強く香るタバコの匂いに、ほんの少し違和感を感じつつ、先生に目をやる。
「よかったねアキラ、長い間好きだったみたいだし。」
「!、なんで知って…?」
「見てたらわかるよ~、ね、泉?」
先生は隣に立っていた泉に同意を求めると、泉は呆れた顔でメガネを上げた。
「気づかれていないと思っていたあなたの方が不思議ですよ、アキラ。」
(あ、れ)
「…そ、っか。」
俺はゆっくりとタツキ先輩を離し、先生を見つめる。
「そうだそうだ!日直でもあんなにいちゃついて!」
「え~先輩ずるい!先輩、一年生の間でもそれなりに話題ですよ!」
「明日から夏休みで、これからイベントも結構あるし…部活終わったら景気づけにご飯でもいくか?」
「マジでー!先生好き!」
「いいねいいねっ!アキラっちょのお祝いもかねて行こ~!」
「…悪くはありませんね。」
俺を差し置いて、ドンドンと話が進む。
「いいだろ?アキラ!」
「は…い」
(なぁ、センセ)
(なんで、目、笑わねーの?)
俺はその時確信した。
先生と生徒、って立場がどんだけもどかしいものなのか、
出会いのタイミングって、どんなに複雑なものなのか、を。
*