第32章 感触
どうしようもなくなった。
何を聞いても、何を見ても、とうとう何も感じなくなった。
今なら大丈夫。
そんな気がした。
でもダメだったらしい。
やっぱりまだ僕は人間だったらしい。
手首に冷たい刃をあてがって、ぐっと力を込めてみる。
握る手を動かす勇気なんてないくせに。
意味のない見栄を今日も張って、自分の首を締め上げる。
いっそいなくなってしまえれば。
思うのに、今日もボクが邪魔をする。
「そんなことはやめろ」
と、確かに言っている。
じゃあお前がなんとかしてくれよ。
なぁ、ボク?
聞いてんだろこの声を。
止めるだけなんて、随分と良いご身分じゃないか。
お前もこの苦しみを味わえよ。
味わう勇気すらないくせに。
心のどっかじゃ、関係ないと思ってるくせに。
止めるだけで満足してのうのうと生きていいわけないんだ。
さぁ。首に刃を当ててみろ。
そしてその手をひいてみろ。
僕の代わりにやってくれ。
なぁ、ボク?
いつもの笑顔はどうしたよ。
笑ってみろよ。
最後まで。
もう終わりだ。
劇場の幕をさぁ下ろせ。