第35章 本当は何だ。
「あの人は素晴らしい」
「お前はあの人の様になれ」
「あの人はとても清らかだ」
誰からも慕われ、賞賛されていたあの人は、誰よりも汚れた人だった。
何故、自分はあの人を目標にしなければならないのか、わからなかった。
自分を、自ら汚せと言われているようにしか聞こえなかった。
「あいつはダメだ」
「あいつはバカだ」
「あいつは汚れている」
誰からも嫌われ、批判されていたあの人は、誰よりも澄んだ瞳を持った人だった。
あの人を、目標にしたいと思った。
批判され続けてもなお、キラキラと輝くあの人を、心から尊敬した。
何故、あの人が、他の人の目には素晴らしい人に見えるのか。
何故、あの人が、他の人の目には汚れて見えるのか。
周りを見渡してみた。
『素晴らしい。汚れている。』
そう口を動かしていたのは、自分の意志を失った、ただの人形だった。