第12章 その12.後ろ向きはいけません
大野さんが言葉を続ける。
「自分の中に土足で上がり込んでくる奴は初めてで、でもそれが案外嫌じゃなくて。」
優しい雰囲気の大野さんが私に近寄る。
こんなに自分の気持ちを
話してくれるのは初めてで、
どんどん聞きたい、知りたいと
思ってしまう。
「柚希のこと、ありがとう。
柚希があんな風に笑うなんて、
今まで知らなかった。
…本当に嬉しかったんだ、が
俺に関わろうとしてくれたこと。
でも、男としては、カッコつかなくて、
どうにか自分で解決したいって思った。
だから、あんな風に何度も拒否した。
…もし、傷付けていたのなら、ごめん。」
「…そんな、謝らないでください…」
大野さんが申し訳なさそうに笑う。
「…いつの間にか何してても
を思い出すようになって、
さすがにクリームパン食って
に会いたくなった時には
病気かよ、って思ったんだ。」
「…………」
「…、意味、わかってる?」
「…………」
「……ねえ、聞いてるの?」
大野さんが私の目の前で小さく手を振る。
ほんとに?
私の勘違いじゃ、ありませんか?
いつものように空回りしてしまいませんか?
「…大野さんは……」
「…うん」
「……わ、私の、ことが…」
「…うん」
「好き、だって、っ…そういう、ことですか…?」
何も言わずに眉を下げて笑った大野さんが、「遅くなってごめんね」と言い、涙の止まらない私を優しく抱き締めてくれた。
大野さんはうでの中はやっぱり暖かい焼きたてのパンのいい匂いがして、それだけで眠ってしまいそうだった。