第9章 Sands of time(立花宗茂)
「何をしてる、行くぞ宗茂」
「…あぁ」
誾千代の呼びかけに返事はするものの、俺は中々その場から動けずにいた。
細い路地の奥、今は提灯だけが残されて人気のない建屋。
以前は遊女屋だった。
「宗茂、早く来い」
「先に行っていてくれ、すぐに追い掛ける」
「……わかった」
誾千代が去るのを見届けるともう一度視線を建屋に戻す。
逢いたくて、たまらない人がここに『いた』。
「……」
小さく呟く。
思い出すのはいつもどこか気品のあったその笑顔。
ただそれだけだった。
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「宗茂様…今日も来てくださったのですね、嬉しい…」
「毎朝…目が覚めたらが隣にいれば良いのに」
「…いつか、迎えに来てくださるのをお待ちいています……宗茂様」
「……必ず来るよ」
約束を誓い合うように愛し合った。
「愛してる」
俺がそう囁くとは笑って頷いた。
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誾千代との婚儀の話が進み出すとここに来る時間は削られる一方だった。
顔も出せずにいるうちに遊女屋はなくなってしまった。
君との約束も、果たせていないまま。
「………」
今、何処にいる?
誰かの傍にいるのか?
逢いたい。
出来るなら何もかも捨てて君に逢いたい。
「まだここにいたのか」
「…誾千代」
「いい加減置いていくぞ」
「あぁ…すまない」
もし何処かでまた出逢えたなら。
その時は。
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Sand of time / BACK-ON
(何を笑っている?)
(いや…なんでもないよ)
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