第5章 社長の気持ち
ドアの方に目を向けると、隼人が立っていた。
それを見て、申し訳なさと、隼人以外の人に触れられた悲しみが涙となって流れる。
「ごめ…隼人…」
そう、言うしかなかった。
「あんた…」
隼人はクラウスさんに歩み寄り、彼の胸ぐらを掴む。
「どーゆーつもりだ!」
「どうもこうも、全て僕が昼に言った通りだよ。『貴夜を貰う』って言ったの、覚えてるよね」
そうか、隼人はクラウスさんにそう言われたから、もう近付くなって言ったのか。
でも俺、何も知らないのにあんなこと言って…。
本当にごめん、隼人…。
「貴夜…」
隼人はクラウスさんを離し、俺に近付き手首を縛ってるネクタイをほどいた。
「ごめん、ごめんな貴夜。俺がもっと、しっかりしてれば。もっと速く、ここに着いていれば…」
何で、謝るんだよ。
お前は悪くないのに…。
隼人は俺の服を整え、額に軽くキスをした。
そして俺を抱きかかえ、立ち上がる。
「僕は、諦めるよ。君が居る限り、貴夜は僕のモノにはならない」
「当たり前だ。こいつは誰にも渡さない。付き合い始めた時に、そう誓ったんだ」
隼人はそう言って、社長室をあとにした。
「はぁ……。失恋、か。初恋だったのになぁ」
ひとり社長室に残ったクラウスさんはそう呟き、自嘲的に笑った。