過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第62章 不運な男1
―――エルヴィンに壊れ物のように優しく抱かれていた婚約者は血塗れで、
その姿からとても重傷なのだと誰もが悟った。
会場にいた人間のほとんどがその酷い有様に息を呑んでいると、
エルヴィンはギッとその蒼眼を動かしナイルを見た。
その瞬間、ナイルの死刑宣告が決まったようなものだったが、
彼は責任感のあるかなりのお人好しであった為、
エルヴィンの下へ歩み寄った。
「・・・すまない。その・・・謝れば良いってもんじゃないってのは
わかっているんだが、俺が眠り込んでいたせいで・・・」
「ナイル。過ぎたことは仕方無い。今は彼女の手当を
優先させたいから救護班の下へ行かせてくれ」
「あ、あぁ・・・すまない」
エルヴィンは不気味なほど静かだった・・・。
いつもは相手を真っ直ぐ見て他人を威圧するあの眼にも、
今だけは憂いを帯びるように伏し目がちになっている。
彼はそう言うと、足早に急遽設置された救護室へ歩いて行った。
あのエルヴィンにも人間らしい人を思いやる心があったのだと
ナイルが感動していた裏で、ナナシがこの会場内では
自分の足で歩くと言い張り、エルヴィンがそれを力づくで
押え込んでいたという事実は永遠に闇に葬られていた。
結局、今回の件で全責任を取らされたナイルは
枕を涙で濡らす日々が続くのだった。