過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第18章 『迅鬼狼』のアジト
足を進め奥の部屋へ行くと、
案の定ナナシがそこで立ち尽くしていた。
砂になっていく老人をじっと見つめている彼が
何を考えているのかはわからなかったが、
その瞳は小さく揺れていて一瞬泣いているのかと錯覚する。
そっと肩に手を置くとナナシはエルヴィンを見上げた。
「もう行こう」
「・・・うん」
こくりと頷いたナナシは最期に老人の傍へ歩み寄り、
遺体に突き刺さっていた短剣を引き抜いた。
それが楔だったかのように遺体は跡形もなく一気に崩れ落ち、
着ていた衣服が床へ落ちる。
短剣を懐に仕舞ったナナシがエルヴィンと共に
地下室から出ると同時に開いていた扉が次々閉じていった。
全員が家屋の敷地から出ると地下室を塞ぐように瓦礫が倒壊し、
全てを押し潰す。
ほんの数時間の出来事が、
壮大な冒険のようだったとエルヴィン達は思った。
訳のわからない事象が起き過ぎて、
どこからツッコんで良いかわからなかったとも言えるが、
貴重な体験には変わりない。
巨人という化物が闊歩する世界なのだから、
このような不思議な出来事があってもおかしくないというのが
調査兵団の考え方だった。
拠点としている基地へ戻る最中、
ハンジがナナシを質問攻めにしていたが結局明解な解説は
得られなかったようだ。
基地に戻ったエルヴィン達が兵士の傍を通る度に
彼らから感謝の言葉を受けた。
「これで安心して身体を休められます」と笑顔で言われ
労いの言葉を掛けていたら、いつの間にかナナシの姿が消えていた。
監視役につけたナナバもいなくなっていたので、
どこにいるかわかったら連絡がくるだろう。
彼には聞かなければならない事が沢山あり過ぎるのだ。