過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第1章 序章:失われた歴史
壁に囲まれたこの国には、
かつて最強と謳われた組織が存在した。
巨人を狩る連携した動きは狼の群れのようだと称され、
素早く獲物を狩る彼らを人々は
『迅鬼狼(じんきろう)』
と呼んだ。
正式な軍としては認められてはいなかったが、
その卓越した知略と武力で巨人から世界を取り戻せると
言われていた程だった。
民衆はその組織の団長を支持し、
国から正式な軍として採用されるという話が出た頃、
その団長は謀反の罪で投獄された。
残った『迅鬼狼』の面々はナンバー2の副長を『団長代行』として立て、
根気強く団長と組織の潔白を訴え続けたが、
最終的に下されたのは壁外追放という処分だった。
壁外に締め出された100名余りの最強軍団は
奮戦むなしく巨人の腹に収まり、
処刑執行日の日は壁の外から断末魔が
三日三晩聞こえたという…。
民衆はそのおぞましさに口を閉ざし、
あっという間にその組織の存在は跡形もなく忘れ去られ、
どの記録にも残らず歴史の彼方へと埋もれていった。
『迅鬼狼』の団長は壁外追放された部下と時を同じくして断頭台の露と消え失せた。
――ただし、組織と懇意にしていた家には代々伝説が残っている。
『団長代行』だけは地獄から生き残り、今尚壁内のどこかに潜伏している…と。
これはもう60年程前の話である。