第9章 Summer編 C
「愛妻弁当ってことは、誰と食べるのかも点数のうちだよね?」
「えっ……そ、それは!」
「僕は君とその豪華なお弁当を食べるより、美味しくもまずくもないサンドイッチを天音と食べるほうが、いい」
微笑んだ彼の表情が、思っていたよりもキラキラして見えて。その場にいた誰もが、言葉を失い立ち尽くす。そんなことがあっていいものか……私は、負けたはずなのにそんな。
「勝負っていうのは、正々堂々とやるものだよ。対等じゃない勝負は、ただの出来レースと同じ。天音を僕の隣から引きずり下ろしたければ、もう少し考えて出直してきて。天音、もう行くよ。もたもたしない」
「え!? あ、はいっ」
また美風さんに助けられてしまった。情けないなぁと落ち込んでいると、軽く美風さんに頭をこずかれた。
「痛いっ」
「ほんと料理下手すぎ、なにあれ誰でも作れるんだけど」
「仰る通りです……」
「ふっ。もう少し練習して、上手くなったら食べてあげなくもないよ」
「本当ですか!?」
「ただし、ちゃんと上手くなること。今日みたいなのは絶対拒否だからね」
「えへへ。わかりました!」
「天音……」
「はい?」
「変わったね、なんか。雰囲気が」
「そうですか……?」
「うん、明るくなった」
「カミュさんにも、そんなことを最近言われました」
「あのカミュがね……」
暑い日差しが私たちを照らし続ける。けれど、夏の暑さに負けないくらい、眩しくて暑いものが確かにある。
「カミュに近づくの禁止ね」
「え!? む、無理ですよ……意図せずに会ってしまうんですから」
「禁止」
「……わがまま言わないで下さい」
「わがまま? この僕が? 自惚れないでよ。僕が天音にたいしてわがままを言うわけないでしょ」
「じゃあ、それは何ですか!」
「命令?」
「私は下僕か何かですか……」
私、美風さんの隣にいたいです。