コミュニティ
カテゴリー | イベント |
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作成日 | 2015-07-15 02:09:45 |
更新日 | 2015-11-09 20:36:10 |
閲覧 | 誰でも可 |
参加メンバー | 9人 |
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トピック
スピンオフ見本②雨が運んできたモノ/黒尾鉄朗【HQ】
慣れない電車に揺られながら流れていく外の景色。
「世界はこんなにも色がなかったのかな?」
心に浮かんだ小さな疑問…だけどソレが本当は大きな問題である事にとうの本人は気付くはずもない。世界が色を失くすほどに疲れている。
ソレが原因だった。
変わる事のない通勤時間。慣れない土地へ来てどれ位の月日が流れたのだろう。
見上げる空は一つのはずなのに、頭上に広がる空は今日もどんよりしていてまるで孤立したような…それは彼女の心の中を映し出したようだった。
少し古びた改札口を出ると黒い雲で覆われていた空からは、ぽたり…ぽたり…と雨が落ちて来た。ゆっくりと、それでいて水音を立てて地面を濡らしていった雨粒はいつの間にか無数の線を描いて文字通り“大雨”となっていた。
(傘…持ってこなかったな。)
足元を濡らしている雨に視線を落としながら、どうやって家路に着こうかを駅構内で考えあぐねていた時だった。
視線を落としていた足元でスニーカーが自分に向き合うように止まった。
立ち止まった人影で微かに暗くなった視界。
ふと…視線を上げると安っぽいビニール傘を差した黒髪の男が立っていた。
「傘…無いの?」
「え?」
「さっきから、ずっと下ばっかり見てるじゃん。傘無いんじゃないの?」
彼女の返事を待たずに男は彼女の手を掴んで自分に引き寄せた。
「送ってってやる。けど、見返りは貰うからな。」
ドクン…ドクン…早鐘を打っているのは男の心音なのか自分の心音なのか?
恐らくは両方なのだが、男の腕の中にスッポリ収まっている自分の身体が男の少し高い体温を感じると、冷静な判断は出来そうにない。
「黒尾鉄朗。名前は?」
まるで子供のようなあどけなさが残るその男は優しく目を細めると彼女の頬を伝う雨粒を指先でそっと拭った。
2015-07-16 22:41:02
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