第11章 人間万事塞翁が馬
沖田さんは、激しく咳き込みながらも、龍馬さんの対面にどっかと座り込みました。
家茂公が遺した「誠」の答え。それは、徳川のために人を斬ることではなく、徳川が守ろうとした「日本の未来」を守ること。
「沖田……おまん、その体で……」
龍馬さんが悲しげに目を細めました。
「言ったでしょう、坂本さん。僕も、あなたが作る『新しい国』とやらを、この目で見てみたいんだ。……南方先生、桜子さん。ここから先は、僕の仕事です」
沖田さんは、私の髪に刺さった桜の簪を一度だけ見つめ、ふっと柔らかく微笑みました。
そして、刀の鯉口を静かに切りました。
「……来ましたね」
階下から、音が聞こえてきました。
「坂本先生、おられますか」という、偽りの訪問者の声。
歴史が、その巨大な牙を剥いて襲いかかろうとしていました。
「桜子さん、先生、下がって! ……坂本さん、死んじゃダメですよ」
襖が激しく蹴破られました。
白刃が翻り、近江屋の狭い室内は、一瞬にして死の淵へと変貌しました。
歴史を修正しようとする闇と、愛する人を救おうとする光。
今、幕末最大の夜が、ついに火蓋を切りました。